泣いたこと
先日、コンビニへ行ったり、役場へ行ったり、人に会ったりを一気にこなす事があった。
負荷がかかった。
心と身体に。
別に悪い事があったわけでもなく、傷ついたりもしなかった。
だけど、神経が高ぶった。
発作に突入しかけた。
僕の発作とは、神経と自意識が暴走する事だ。
刺激に対する感覚が鋭くなる。
例えば、壁やテーブルなどの黒点や、ガラスが反射する光、遠くの方で吠えている犬の声が、自分の存在を圧倒してくる。
なんていうか、皮膚がはがれた状態で世界に触れているような感覚。
つらい。
もうひとつの、自意識の暴走とは。
幻聴ではないのだけど、誰かに責められている感覚に陥る。
「おまえなんかいらない」
「死ねばいいのに」
「うそつき」
というような事を言われている気分になる。
この二つが、相乗効果を発揮する。
「壁の点に睨まれて、責めれらている」とか、「自分の動作一つ一つに文句を投げかけられるように感じる」。
「人の話し声が聞こえると、全部自分に対する文句を言っているように聞こえる」ような状態にもなる。
あと、光や音が侵食して自分を破壊しているイメージにもとらわれる。
しんどい。
それまで何でもなかったものが、凶器となって一気に襲いかかってくる。
でも、最近はそういう事が無かった。
それで、こないだ発作を起こしかけた。
一歩手前で自覚した。これはまずい、と。
選択肢は3つあった。
1、ヒルナミンを飲む。
2、寝る。
3、それ以外の何かをする。
ヒルナミンは飲みたくなかった。
ずっと飲んでいなかったし、飲み始めると「それ無しじゃいられない状態」に突入するんじゃないかと思ったからだ。
依存状態には戻りたくない。
薬は頼りになるけど、最後の手段として取っておきたかった。
それで、眠る事にした。
幸い、発作の一歩手前だったので冷静な判断が可能だった。
窓を閉めて、テレビを止めて、押入れの中に潜ってやり過ごそうとした。
もうちょっとタイミングが早ければ通用したかもしれない。
だが、間に合わなかった。眠れない。
足が震えてくる。心臓もドキドキしてくる。呼吸も乱れていた。
ヒルナミンを飲むかどうか、迷った。
それでも、僕はさらに抵抗する事を選んだ。
僕は以前、脳の本を読んだ事がある。
その中に「泣くとストレスがリセットされる」と書いてあった。
僕の病気は脳の病気なのだから、脳に直接干渉すればいいんじゃないか?そんなふうに思った。
それに泣きたい気分だった。
どうやって泣くかを考え始める。
そうこうしている間にも、神経の高ぶりが、加速していた。
あんまり発作をこじらせると、ヒルナミンも通用しなくなる。
病院へ行って尻に注射するのは、もう嫌だった。
時間が無かった。
僕は本棚から泣ける小説を2冊、取り出した。
泣くのは簡単だった。
神経の高ぶりと同時に、感受性も強くなっていたからだ。
主人公が大切な人を失う場面を目で追うだけで、涙があふれた。
涙が頬を伝う程出てきた。
鼻水も止まらない。
そのうちに、肩と胸が震えてきた。
普段ない事なので、僕は泣きながら、どこか冷静にいつもと違う事を自覚していた。
だが、なるがままにする事にした。
そうしていると、声が出てきた。
「ういっ!ひっぐ!うわぁ!(文字にするのが難しい)」と。
声を出して泣くなんて、子供の時以来のことだった。
そのまま、大号泣。
20分ぐらい泣いていた。
結果。
すっきりした。
発作も治まった。
心が落ち着いた。
そのあと、僕は泣き疲れて1時間くらい眠った。
こんなシンプルな事で病気に対抗できるのは驚きだった。
もっと早くやればよかった。
「つらい時は泣けばいい」。
ホントにその通りだった。
それでは、また。