いとおしい
昔、猫を飼っていた。
メス猫なのに、名前は「しゅんたろう」。
何でそんなことになったかと言うと、拾ってきた姉がオスと勘違いして名前をつけてしまったからだ。
中学から高校時代にかけて、僕はしゅんたろうと2人暮らし(1人と1匹暮らし)をしていた。
しゅんたろうは僕になついていた。
いつも膝の上に乗っていたし、寝る時も僕のわきの下か、股の間で眠っていた。
なので、寝返りが打てなかった。
いつでも一緒だった。
きっとしゅんたろうは、僕を愛してくれていたと思う。
でも、僕は素直にその気持ちに応えられなかった。
世話をするのが僕ひとりだから、「しょうがなく」なついている。
それ以外に愛される根拠がない。
そんなひねくれた発想しかできなかった。
今思うと、ひどい話だと思う。
仮に僕が誰かや何かを好きになったとして、その相手に「仕方なく寄ってきてるんだろう」なんて思われたら辛い。
自分が相手を想っていればいるほどに。
未だにあいつの気持ちに応えられた自信がない。
僕が統合失調症になって少ししたぐらいの時に、しゅんたろうは病気で死んだ。
朝起きたら、枕元で倒れていた。
泣いた。
その時僕は、自分の中にあるあいつへの気持ちに気づいた。
どれだけあいつの存在に救われていたのかを実感した。
けど、遅かった。
いま、僕はカメを飼っている。
名前は「ミルク」。
僕はかわいいと思って接しているが、全然なつかない。
噛みつかれた事もある。
自分なりにかわいがってはいる。
具体的に言うと、話しかけている。
「ここにいてくれて、ありがとう」とか。
多分意味は理解されていないだろうけど。
根拠なんてないけど、僕はミルクが好きだ。
揺るぎなく好きだ。
しゅんたろうもこんな気持ちだったんだろうか?
そんなふうに思って、ちょっぴり自分の人生を肯定していたりする。
それでは、また。