超えた。変わった。
僕は統合失調症患者なのだけど、現在薬をほとんど飲んでいない。
いちばんひどい時は1日30錠以上飲んでいた。
医者に「君は一生薬を飲み続けないといけない。さもなくば廃人だ」と脅された。
病気自体もひどかったし、本当に廃人になるというのも理解できたので、僕は医者に従った。
それが10年以上前のことだ。
病気は少しずつ良くなった。
何度か主治医の交代を経て、薬の量を減らしていった。
何年か前に「精神病を治すには、バナナを食べて散歩をして日光を浴びればいい」と本で読んだ。
何でもそれをやると、セロトニンという物質が脳内で分泌されて脳の調子を整えてくれる、とのことだった。
それで僕はそれを実行した。
すると、劇的に病気は改善された。
知り合いに顔の表情が変わったと言われ、僕自身外出に対する恐怖もなくなった。
今日、スーパーへ行ってきた。
いつもの人にあった。
そのおばさんは僕を目の敵にしているのか、僕を見る度に僕をあざ笑う。
しかも僕に聞こえるように言う。わかっててやっている。良い性格してると思う。
以前の僕はその人が怖くて仕方がなかった。
うつむいて知らんふりしたり、逃げだしたりしていた。
惨めだった。つまり負けていた。
だが、最近はどうでもよくなった。
気にならなくなった。
で、今日もなんかこっちをちらちら見ながら何か言っていた。
憎むのも、恨むのも、怖がるのも飽き飽きしていた。
なので、発想を変えてみた。
こういう人だっていてくれないと、僕の人生は成り立たないのだ、と。
その瞬間、見え方が変わった。
恐怖が完全になくなった。
凶悪に見えた人相も、見方を変えればブルドッグみたいで愛らしい。
おばさんと目があった。思わず僕は微笑んだ。
なんかびっくりしているように見えた。
完全におかしいやつ、と思われたかもしれない。
だが、どうでもいい。
僕は幸せだし、おばさんもおばさんで幸せになればいい。
僕はさわやかな気分で、おばさんを突破した。
試練と言うか、戦いはそれだけじゃなかった。
小学生がいたのだ。
しかも大人数。学校の行事かなんかでスーパーの見学に来ていたらしい。
僕は近所の小学生に変な人だと思われている。
以前、僕はとんでもなくおどおどしていて、悪目立ちしていた。それで不審者だと思われている。
正直、そんなふうに思われるのは辛い。
しかし、「僕は変な人じゃないよ」と申し開きする機会など無いし、そもそも避け続ければ接点は普段ない。なので、どこか後ろめたい気分を抱えながら、そのままの状態でやりすごしていた。
だが、今日ははち合わせた。
でも、逃げるのも面倒だった。別に悪い事してねえし。
僕は堂々としている事にした。
「あの人……」
僕を見て女の子数人が何かを言っている。
何を言われるんだろう?超怖い。
仏頂面で棚のマシュマロを見ながら、次の言葉を待った。
耐えて見せる。負けはしない。
身体を固くした。
だが、次の言葉は意外なものだった。
「超かっこいい!」
「おしゃれ!」
は?
一瞬、意味がわからなかった。だが。
褒められた!
ここ一年、おしゃれに気を使ってきた成果が出た。
まあ、田舎でおしゃれ人口が低いからハードルが低いせいもあると思うけど。
なんだかわからないが、否定はされなかった。
その後のスーパーの店内放送でわかったのだが、ちょっと遠くから来た小学生たちだったらしい。
遠くの町でやりなおせば、僕は十分まともな人間として暮らせるのかもしれない。
僕は希望に胸を膨らませた。
近所のコンビニの店員さんにも、「いい笑顔だ」とか褒められたし、なんか状況がどんどん良くなっている。
それで、発作も起きないし、働けるんじゃないか?と思っている。
やってみなければ、どうなるのかなんてわからない。
だから、やってみようと思う。
たとえ痛い目にあう事になるとしても。
それでは、また。