面接
午前中、風呂掃除をしていたら電話がかかってきた。
この間申し込んだバイトの、面接担当の人。
申し込んだのは開店前のスーパーの掃除のバイト。
急で悪いのですが、今日面接どうですか?と聞かれた。
大丈夫です、と伝える。
午後1時にスーパーのATMの前で待ち合わせをする事に。
僕は家事を済ませ、カップめんを食べ、雨がっぱを装備し、自転車で現場へ向かった。
約束の15分前には到着できた。担当の人はいない。緑の作業服を着ていると言っていた。
これからどうなるんだろうと、ベンチに座って考えた。
緊張して考えがまとまらない。
5分前になって担当の人は現れた。
黒ぶちメガネの大人しそうな男性だった。
こっちです、と連れられて行ったのは2階へ続く階段。
メガネさんは、その階段の横にある「関係者以外立ち入り禁止」の扉に手をかけた。
開ける。
メガネさんが壁のスイッチを押すと電気が付く。
倉庫だった。
裸電球ただ1つ。
失礼します、と言って中に入ると様々な備品があふれていることがわかる。
モップ、色とりどりのスプレー、タイムカードとその機械、掃除用だと思われる大きなマシン。
どれも普段から使いこまれている事が一目でわかった。
メガネさんは、その一角から背もたれのない丸い椅子を手渡してくる。
ここで面接をするという事にその時気付いた。
ちょこん、と座って向かい合う。
それでは始めますと告げるとメガネさんは説明を始めた。
勤務時間、店に入るときのルール、ベルトとスニーカーは自分で用意することなど。
平均年齢の話の時に、扉が軋むような音を立てて開く。
振り返って目を向けると、60代ぐらいのおばさんが入ってきた。
作業服を着ていて、メガネさんと御苦労さまです、と挨拶を交わす。
僕も軽く会釈をした。
優しそうな笑顔。
少しホッとして、少し勇気が出た。
履歴書に書いてあったので、統合失調症の事も聞かれた。
正直に答えた。
入院していた事、引きこもっていた事、どういう病気かという事を。
そのあとに、いまは外に出られるようになったことと、採用していただけたら一生懸命働くつもりである事を自分なりに説明した。
メガネさんは、いまは大丈夫なんですね?と念を押してきた。
僕はメガネの奥の瞳をしっかり見て、はい、と強くうなづいた。
説明は以上です。質問は?と聞かれたので、聞いた。
7~9時以外に労働は求められることはありますか?と。
すると、「男性は朝だけだ」と言う答え。
何でもトイレ掃除は女性にしか任せられないという。
男性は女子トイレに入る事は出来ないけど、女性は男子トイレに入れますよね、あれって男性に対する差別ですよね、とメガネさんは笑った。
さらに見栄え的にもスーパーがやっているときは男性よりも女性に優先的に働いてもらうのだという。
なので、男性が朝の開店前の時間以外に仕事を頼まれる事はほとんど無いらしい。
他にもチラシには書いてないけど高齢の人は断るという。
一度80歳のおじいさんが仕事をしたいとやってきたのだけど、さすがに心配だったので「きつい仕事です」と言って帰ってもらったらしい。
チラシや求人情報に書くと問題になるから書けないけど、そういう性別や年齢の制限は、ある。と言っていた。
おお、リアルな情報を聞けた、と僕はなんだか得した気分になった。
じゃあ、結果は来週の頭ぐらいには出ると思いますので、と告げられて面接終了。
僕は椅子を返却し、倉庫のドアを開き、一礼をしてその場を後にした。
家に着いて部屋着に着替えてから疲れがドッと来た。
どうなるんだろ。
疲れたけど、頑張れた気がする。
それでは、また。