負けていた
今まで僕は負けていた。
世間に負けた?
貧しさに負けた?
いや、ちがう。
コンビニの店員さんに負けていた。
その人は大柄な女性だ。
僕より大きい。
茶色い髪で、いつも頭の上にお団子まとめをしている。
とにかく元気。
しょっちゅう、お客さんと喋っている。
表情がくるくる変わる。
かわいい、と思う。
あの店で、あの人だけが使っているスキルがある。
それは……
「目を見てニコっ。」だ。
レジでお釣りを渡す時、お客さんの目を見てニコって笑う。
ふくよかな体型と相まって、癒しの力がある。と僕は思っている。
普通にコンビニに通うようになって、時折目を向けると、お客さんに対して、あの人が「ニコっ」ってしている事に気づいた。
最初その技を食らった時、僕は戸惑った。
接客業としては当たり前なのだろうか?
だが、僕はすごいと思う。
自分だったら気後れして、あんなことはできないと思う。
誰に対しても、ほぼ100パーセント技を決めている。
さらに言うと、わざとらしさが全然ない。
かなわない、と思う。
そんなわけで僕は気圧されていた。
僕だけかもしれないが、人にはそれぞれ「オーラの力」というか、そこにいるだけで発しているものがあると思う。
僕はそれが苦手だ。
いつも押し負けている。
それに、
女の子と目を合わせるだけで緊張するのに、ニコって笑われたら、動揺してしまう。
僕はいつも、うつむいたり、目を逸らしたりしていた。
しかし、いつまでも負けていられない。
僕は戦う事にした。
きょう、コンビニへ行った。
買い物をする。
お釣りをもらう。
目が合う。
耐えた。
そして、「どうも」って言えた。
ささやかな抵抗かもしれないけど、出来た。
わずかながら、押し返せた気がした。
対人ストレスというものは一朝一夕に消えるものではないと思う。
なので、僕は今日みたいに少しずつ慣れて行こうと思う。
それでは、また。